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大阪家庭裁判所 昭和46年(家イ)6884号 審判 1975年1月31日

申立人 国籍 韓国

住所 大阪市

宗美礼(仮名)

相手方 国籍 韓国

住所 大阪市

崔斗栄(仮名)

主文

申立人に対し、相手方所有の別紙目録記載の財産を分与する。

相手方は申立人に対し、前項記載の財産について、同記載の財産分与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

理由

1  申立人は、主文同旨の審判を求めるものであるところ、本件および当裁判所昭和四五年(家イ)第三九二号夫婦関係調整申立事件の各記載によれば、次の事実を認めることができる。

(1)  申立人と相手方は、昭和一八年秋挙式し、昭和一九年六月一二日相手方の肩書本籍地に婚姻の届出をなし、その間に昭和二〇年二月二日長女優子、昭和二三年一二月二八日二女美子、昭和二五年一一月二六日長男浩一こと元明、昭和三一年一月二六日二男宏こと元順が順次出生したが、昭和四五年五月一二日当庁において、当事者双方間に離婚の調停が成立した(上記昭和四五年(家イ)第三九二号事件)。

(2)  申立人は、幼時より大阪市住吉区内の両親の許で生育し、同区安立国民学校を卒業した後は、上記の結婚をするまで堺市内の工場で工員として働いていたものであり、相手方もまた上記の結婚よりだいぶ前から来日していて、宝塚市内の飯場で土工をしていたものであつて、双方の上記の婚姻生活は、当初の一年足らずの間だけが、当時の相手方の住所であつた宝塚市内の飯場で営まれたほかは、その後昭和二五年までは上記の申立人の母宋秀凉方で、以後上記の離婚までの二〇年間は同様大阪市住吉区内である申立人の肩書住所で営まれ、その間双方とも短期間の旅行以外には本国である韓国へ赴いたことはなく、上記の離婚後も、申立人は肩書住所に留り、相手方も韓国に帰国することなく肩書住所に現住している。また、相手方はその間の昭和一九年九月応召して軍務に服し、昭和二一年夏復員したものである。

(3)  相手方は、婚姻当初は土工をしていたが、上記の復員後の昭和二一年秋からは、上記申立人の母宋秀凉から資金の援助を受け、申立人と夫婦で共同して水あめ製造業を始め、相手方において製造過程のほか原料の仕入れ、納品先への製品の運搬および代金の集金を受け持ち、申立人においても、家事労働のほかに、相手方と交代で、大きな釜で煮つめた原料をまぜるなど製造過程における重労働を半分受け持ち、夫婦共同して毎日早朝より働き、幸い事業も順調に発展し、一時は何人かの従業員を雇うほどになつたので、その利益から昭和二五年七月一一日別紙目録記載の土地およびその北側に隣接する土地合計約四〇〇平方メートルを代金一〇万円余で購入し、(相手方への所有権移転登記昭和二五年八月一五日)別紙目録記載の土地に同目録記載の建物を約四五万円の費用で建築(相手方名義の所有権保存登記昭和三二年三月二七日)してそこへ転居し、北側隣接地上にバラックの建物をもうけ、そこで水あめ製造を続けた(申立人や上記長女優子は、相手方が結婚当初より昼間から酒びたりでほとんど働かず、上記の水あめ製造についてもほとんど申立人がなしたものであり、相手方は気が向いたとき手伝う程度で、上記財産の取得に相手方の寄与するところはほとんどないと主張するけれども、申立人自身審問において相手方が原料の仕入れ、製品の納入、集金の一切をなしていたことを認めていることおよび参考人橋本三夫、同村井信吉の各審問の結果ならびに後記認定の諸事情に照らし、信じ難い)。

(4)  翌二六年夏頃水あめの需要が減少し利益が上らなくなつたので、相手方は同所でパチンコ屋を開業したが事業は失敗し、負債の処理のため上記北側隣接地を売却処分する破目となり、その後下駄屋などを始めたがいずれも思わしくなかつたので、土工として働くとともに、上記建物の一部を改造して間貸しを始め、それによる給料、賃料を建築費にあて、さらに相手方自身大工の経験があつたので、自ら申立人とともに柱を建て、壁を塗るなど労力を提供し、成長した子供もこれを手伝うなどして、昭和三二年から昭和三六年にかけて三回にわたり増改築をなした結果、上記建物は家族で数室を使用してなお約二〇室を賃貸できる、現在のような大きさのものとなり、賃料も一ヶ月約一三万円を得られるようになつた(申立人および上記長男元明、長女優子は、上記の間も相手方はほとんど働かず、上記の建築費もほとんど上記宋秀凉が立て替えて支払つたものであると主張するが、同人らも相手方が上記のように労力を提供したことを認めていること、上記の増改築の第一回目のものは後記のように申立人が子供四人とともに長期間家出をしている間に完成していることなどに照らし、上記宋秀凉から若干の援助があつたことは認められるものの、全体として甚だしい誇張とみざるを得ない。自ら労力を提供して家屋の増改築を完成させた者が申立人のいうように生来怠惰であつたというのは理解し難いところである)。

(5)  しかし、相手方は生来の酒好きであり、また自己中心的で妻予に対する愛情の交流にまつたく欠けていたところから、上記賃料収入はすべて自己のものとし、妻子には充分な生活費も渡さず、一人外へ出かけては酒食や女遊びにこれを浪費し、或は韓国の実家へ送金したりしてこれを費消したので、上記離婚当時に夫婦間に残つた共通財産は別紙目録記載の上記土地、建物および韓国の本籍地の農業協同組合に対する五三万元(約七〇万円)の預金債権のみで、そのほかには取立ていうほどのものは何もない。

(6)  また相手方は、性格にかなりの片寄りがあり、情緒面への些細な刺激により容易に激昂し攻撃的行動に出る、いわゆる短気、粗暴な性格を有するものであるところ、申立人に対しては口ではかなわないことなどから劣等感を抱いていたため、申立人を攻撃の対象とし、婚姻の当初から、申立人の些細な言動により激昂して、或は他に対する不満、うつ憤のはけ口として、申立人に対し、ほとんど毎日のように、頭髪を引張つたり、手拳で殴打したり、足で蹴つたりするなどの暴行を加え、その程度もいわゆる夫婦喧嘩の域を超える強暴なものであつて、通報により警察官が仲裁に駆けつける回数が三日に一回というような時期もあり、その間には申立人は、下駄で頭を殴られてかなりの裂傷を負わされたこともあり、出刄包丁で手指などに切りつけられたり、薪割りやスコップを振り上げて追いかけまわされたりしたこともしばしばあつた。

(7)  相手方は、上記のように収入を一人占めにし、申立人には充分な生活費を渡さなかつたので、申立人は婚姻の当初より、編物、密造酒作りなどの内職をするほか、上記宋秀凉の援助を受けて、なんとか子供達との生活費をまかなわねばならなかつたが、そのように相手方が家庭を顧みないため、子供達も自然と母親の申立人の方に付くようになると、相手方は子供達にも同様の暴行を加えたり、長男元明が結核にかかつた際にはこれを放置して入院費用を出すことを拒むなど、申立人ともども子供達をも虐待するようになつたので、申立人はこれに耐えかねて自殺をはかつたことも何度かあつた。

(8)  申立人は、相手方の上記の如き暴虐に耐えかね離婚を決意して、昭和三三年三月から約一ヶ月間および同年五月から翌三四年一〇月頃までの二回にわたり、子供四人を連れて家出し、母子寮に入居したり、子供らを施設に預けて自らは住込みで働いたりする一方、当庁へ離婚調停の申立をしたが、相手方はこれに応じないばかりか、母子寮へ押しかけてきたり、上記長女優子のいる施設へ来て同女を無理に連れて帰ろうとし、これを拒んだ同女に頭髪をつかんで引きずりまわすなどの暴行を加えるなどの行動におよび、申立人らとしても安全な別居生活ができないうえ、すみやかに調停離婚が成立する見込もたたなかつたため、やむなくそのつど離婚をあきらめて相手方の許へ戻つた。相手方はその当座はおとなしかつたが、間もなく元通りになり、上記のように申立人や子供達に対し暴虐の限りをつくすようになつた。

(9)  相手方は、上記のようによく酒を飲み、しばしば刄物を持ち出して暴れるなどするため、警察を通じ慢性アルコール中毒ということで昭和四〇年と同四三年に各一度入院させられ、昭和四四年七月二三日退院したが、その頃は相手方が虐待してきた上記長男元明、二男元順が成長していて、相手方が帰宅するのを実力で拒んだので、以来相手方は宝塚市内などに居住して申立人と別居し、その後昭和四五年二月一三日当庁に離婚調停の申立をなし(上記昭和四五年(家イ)第三九二号事件)、その事件につき同年五月一二日上記のとおり離婚の調停が成立した(婚姻継続期間は約二六年となる)。

(10)  申立人は、相手方の上記二度目の入院以来、上記建物の賃料を全額収受していたが、上記離婚後相手方との間で、結局上記賃料は全額申立人が収受して子供らの学費などにあてる旨の話合が成立したので、現在申立人は上記賃料の一ヶ月金一三万円余のほか、食堂でいわゆるパートタイマーとして働き一ヶ月金八万円余を得ているが、長女優子が別居して自活しているほかは、精神分裂病で入院している二女美子の入院費に一ヶ月金四万円、東京の大学に入つている長男元明への仕送りに一ヶ月金四万円、大阪市内の予備校に通つている二男元順の学資、上記建物の修繕費と毎月多額の出費を余儀なくされており、そのうえ賃料の滞納もしばしばあるので、生計を維持するのは必ずしも容易ではない。

(11)  申立人は、現在五二歳(離婚時四八歳)であり、その年齢と上記のような旧制小学校卒業という学歴からすれば、就職可能な職種は非常に制限されるであろうから、将来も現在のパートタイマー以上の高収入は期待できないし、また申立人には上記以外には何らの資産、収入もないが、上記の長男、二男が一人前になり、扶養を要しない状態になるにもまだ数年を要するうえ、医師の診断によれば、二女美子の上記の病気は長期にわたり入院加療を要するところ、上記のような従来の態度からみて、相手方がそれらの子供の生活費、学費、入院費などの扶養料を、任意に負担するとは考えられず、また相手方の後記の職業からすれば、その給料に対する強制執行も実効性に乏しいものというべきであるから、申立人が将来も子供達を扶養しつつ自ら生活していくためには、上記建物の賃料全額が是非とも必要な状況にある。

(12)  相手方は、申立人より一歳半余年下であり、現在大阪市の浄水場で働き、月収約一〇万円を得てアパートで一人暮しをしており、資産として本件土地、建物のほか、韓国の郷里に家督相続した水田一、〇九二坪および韓国外換銀行大阪支店に金一〇〇万円の定期預金と少額の普通預金を有している。

(13)  別紙目録記載の、本件土地の昭和四八年度都市計画税課税標準価格は金八八二万五、一〇〇円(固定資産税課税標準価格は金三〇一万円)、同記載の本件建物の固定資産税課税標準価格は金一〇七万四、〇〇〇円で、その合計は金九八九万九、一〇〇円であるから、それより三年前である上記離婚当時における本件土地、建物の価格は、金一、〇〇〇万円を甚だしく超えるものではなかつたと考えられる。

(14)  相手方は、上記離婚調停成立後の昭和四五年末頃、本件土地、建物の売却を図つたので、申立人は、大阪地方裁判所で上記財産に対する仮差押決定を得たうえ(同裁判所昭和四六年(ヨ)第四二四六号事件)相手方からの起訴命令の申立に応じて、同裁判所に対し本案である金八〇〇万円の慰謝料請求訴訟を申し立てたところ(同裁判所同年(ワ)第三一六九号事件)、同裁判所は昭和四八年一一月一三日同事件につき、ほぼ上記(2)ないし(9)記載同様の事実を認定したうえ、相手方が申立人に対しそのように長期間いわれのない暴力や虐待をくわえたため、申立人は相手方と離婚せざるを得なくなつたものであるとし、その慰謝料として金五〇〇万円の限度で申立人の請求を認容する判決をなした(これに対し、相手方は控訴申立をなしたので、同事件は大阪高等裁判所に昭和四八年(ネ)第一九六四号、第一九六五号事件として係属中である)。

2  上記認定の諸事情のもとにおける、本件についての、当裁判所の法律判断は次のとおりである。

(1)  本件当事者は、いずれも韓国人であるが、上記1(2)記載のとおり、いずれも長期間にわたり大阪市内の肩書住所に居住しているものであるから、本件については、わが国に裁判籍があり、当裁判所に管轄権がある。

(2)  離婚した夫婦の一方が他方に対し財産の分与を請求し得るか否かの点、離婚した夫婦間に扶養義務が認められるべきか否かの点および離婚した夫婦のうち有責者は他方に対し、いわゆる離婚慰藉料(個々の離婚原因による慰藉料ではない)として離婚によつて生じた損害を賠償すべきか否かの点は、いずれも離婚の効力に関する問題として、法例一六条により、夫たる相手方の本国法である韓国民法が準拠法となるものと解すべきところ、財産分与および離婚後の扶養の二点については、同法にはそのような請求を認める規定がなく、また離婚慰藉料についても、同法八〇六条、八四三条が特に婚約解除と裁判上の離婚の場合に限つて、過失ある相手方に対する、財産上、精神上の損害の賠償請求権を認めていることからみて、同法は協議上の離婚の場合にはいわゆる離婚慰藉料の請求も認めないものと解され、またわが家事審判法における調停離婚は、韓国民法上の裁判上の離婚にはあたらないものと解される。

(3)  従つて、韓国民法によれば、申立人は前記の如く相手方の多年にわたる虐待に耐えつつ、相手方の財産取得のために大いに貢献してきたにも拘らず、相手方に対し何らの離婚給付を請求し得ないこととなるが、そのような結果は甚だしく条理にもとり、人道上許し難いものといわねばならない。

のみならず、本件当事者はいずれも昭和二七年四月二八日に平和条約が発効するまでは日本国民であつたものであり、かつ上記1(2)記載のとおり、その前後を通じての婚姻生活は全期間わが国内で営まれ、双方ともわが国内に現住しており、当事者双方の婚姻生活、離婚および離婚後の生活は、夫の国籍という一点を除いては、日本国民の場合のそれと何ら異なることなく、わが国内の社会生活において渾然一体となつて営まれてきたものといつてよい。

そして、わが国内の社会生活における離婚に関する法規制については、周知の事実であるが、現行憲法二四条二項の定める家族生活における個人の尊厳と両性の本質的平等の大原則にもとづき、民法親族、相続編が改正された際に、従来いわゆる離婚慰藉料によつて補われていた、懸案の離婚給付制度が、民法七六八条として新たにおかれることとなつたのであり、同条は夫婦共通財産の清算により、妻の財産権を強化して夫婦の実質的平等を保障するとともに、離婚後の主として夫から妻に対する扶養により、主としての妻の従前の配偶者としての人格的尊厳を保障し、もつて憲法上の上記大原則を離婚において実現しようとするものであることは、あえて多言を要しないところであるから、同条の定める財産分与は、いわゆる離婚慰藉料とならんで、まさにわが国離婚法秩序の根幹をなすものといわねばならない。

そうすると、そのようにわが国の社会と極めて深い牽連関係をもつている、本件当事者間の離婚給付に関し、特殊韓国的な家父長的家族制度を前提とする、前記韓国民法を適用することは、家族制度を廃止し、家族生活における妻の従属性を否定し、個人の尊厳と両性の本質的平等を基調とする、わが国の上記離婚法秩序に反し、その混乱を招来する結果となることは明らかであるから、法例三〇条により、そのような韓国民法の適用はこれを排除すべく、本件については、同法に次いで本件生活関係に緊密な牽連関係のある、わが民法を適用するのが相当というべきである。

(4)  手続法については、法廷地法であり、かつ準拠法所属国法である、わが家事審判法によるべく、同法九条一項乙類五号の審判手続によることができるものと解される。

(5)  わが民法七六八条の定める財産分与請求権は、夫婦が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配し、かつ、離婚後の一方の当事者の生計の維持をはかること(いわゆる離婚後の扶養)を目的とするものであつて、分与を請求するにあたりその相手方たる当事者が離婚につき有責であることを要しないから、相手方の有責な行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被つたことに対するいわゆる離婚慰藉料の請求権とは、その性質を必ずしも同じくするものではないが、裁判所が財産分与を命じるかどうかならびに分与の額および方法を定めるについては、当事者双方における一切の事情を考慮すべきものであるから、分与の請求の相手方が離婚についての有責の配偶者であつて、その有責行為により離婚に至らしめたことにつき、請求者の被つた精神的損害を賠償すべき義務を負うと認められるときには、右損害賠償のための給付をも含めて財産分与の額および方法を定めることもできると解すべきである(最高裁昭和四三年(オ)第一四二号同四六年七月二三日第二小法廷判決、民集二五巻五号八〇七頁以下参照)。

そして、本件については、上記1(14)記載のとおり、離婚慰藉料請求訴訟が本件とは別途に提起されているが、同訴訟においてはいまだ慰藉料につき確定判決は得られていないから、本件財産分与に慰藉料としての給付をも含めて審判することは許されるものと解される。

(6)  本件当事者が離婚当時有していた実質的な夫婦共通財産は、上記1(5)記載のとおり、別紙目録記載の土地建物と若干の預金であるが、上記1(3)ないし(5)記載のような、上記財産を得るについての当事者双方の協力の具体的状況によれば、上記財産につき申立人が清算分配を受けるべき寄与分は五割と定めるのが相当である。

(7)  申立人は、上記1(5)ないし(9)記載のとおり、相手方の有責、違法な行為によつて離婚のやむなきに至らしめられたものであり、相手方が申立人に加えた暴行、虐待は、その程度が強暴であること、頻度が甚だしく大であること、その期間が約二六年の婚姻継続期間のすべてにおよぶこと、そのいずれをとつても常軌を甚だしく逸するものというべく、申立人がその間多大の精神的苦痛を被つたであろうことは認めるに難くないところであり、上記事情によればこれに対する慰藉料額は、当裁判所も上記…(14)記載の大阪地方裁判所の判決同様、金五〇〇万円と定めるのが相当と考える。

(8)  そうすると、別紙目録記載の土地、建物の離婚当時における価格は、上記1(13)記載のとおり、金一、〇〇〇万円を甚だしく超えるものではなかつたと認められるから、これに対する上記の清算による寄与分の価格と上記の慰藉料額とを合わせれば、ほぼ上記土地、建物の価格に近くなり、ただそれが金一、〇〇〇万円を起える場合、その額の半分だけ足りないこととなるわけであるが、上記1(5)および(10)ないし(12)記載のごとき、当事者双方の年齢、学歴、職業、離婚後の生活能力、双方間の子の扶養状況、特有財産の多寡ならびに本件の離婚原因は相手方にあることおよび相手方が婚姻中得た収入の大半を遊興に浪費したことなどの事情を考慮すれば、相手方は申立人に対し、そのような不足額に優に匹敵する程度の、相当額の離婚後の扶養料を支払う義務があるものというべきである。

そして、上記事情によれば、相手方は上記土地、建物の賃料が得られなくても充分生活をしていくことは可能であるのに反し、申立人がこれを得られなくなるときは、たちまち申立人と上記の子供達の生活が根底から覆えされるに至ることは明らかである。

(9)  以上の判断の結果、当裁判所は、本件財産分与については、清算、慰藉料、離婚後の扶養を合わせた包括的離婚給付として、本件土地、建物の全部を申立人に分与するのが相当であるとの結論に到達した。

3  よつて、家事審判規別五六条、四九条により、相手方に対し、別紙目録記載の土地、建物につき、申立人への所有権移転登記手続を命じることとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 山崎杲)

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